東京と友達3

 

 運動も好きだったけど今となってはそれ以上に好きなものが音楽だ。学ぶことを続けるならそういうことを学びたかった。進学を決めたのは大学案内で「卒業しても就職しない人もたくさんいます。音楽とか演劇をやったり。」というわたしにとって1番の誘い文句を聞いたからだった。進学先の大学はいわゆるFランと呼ばれる偏差値の高くない大学だった。けれど資料で見た講義には魅力的なものばかり、わたしの興味が詰まっていた。そもそもわたしは「テストでいい点を取る」というような勉強がてんでダメだったのでその大学は言ってしまえば都合がよかった。都合がよいというのは語弊がありそうだけど。

 


 就職という言葉にずっと抵抗があり、大学を出たらそれなりの職につかなければいけないという固定概念があったため進学に否定的だったが、ある教授が口にした先の言葉でわたしはそこへ進学を決めた。誰だったか忘れたけど。本来大学というのは「さらなる学び」を得るために行く場所であり、就職という社会に出る一手段でに使うものではない。それにずっと気がつけずにいたがその時にハッとできた。

 


 適当に分けられたクラスで、ある子と友達になり、彼女の高校からの友人だという子を紹介してもらった。それがマヤ。今となっては都会暮らしの最後の拠点で彼女と2人で住んでいる。2人は他のもう1人と3人組でバンドをやっているらしく、友人にバンドをやっている人なんていなかったわたしは音源を聞かずともかっけーな〜と思っていた。

 


 あ〜この教授はとってもいいな〜と思える人の授業を取っていた。同じ授業を取っている金髪のボブの女の子がずっと気になっていたがなかなか声がかけられずにいた。何週かが過ぎたある日、彼女がペンを忘れたらしく斜め後ろに座っているわたしに声をかけてきた。わたしは赤ペンと鉛筆しか持っていたなかったので鉛筆を彼女に渡した。次週、逆にわたしがペンを忘れて「ごめんね〜」と彼女に借りた。それがほのかとの出会いである。

 


 この2人が大学でいちばんに影響を受けた大好きな2人。

 


 ほのかも同じく高校からバンドを組んでいた。そんな人が普通にいるのかと新たな世界に来たんだな〜とホカホカしていた。マヤとほのかと3人で会うことは最初は少なかったけれど各々と音楽は何が好きかとかこれがかっこいいというような話をしてどんどん仲を深めた。冬には3人で同じサークルに入って3人で過ごす時間も増えた。3人揃えばめっきり音楽の話。他にもみんなお洋服が好きだったのでお洋服の話。講義をサボって日向ぼっこして、わざわざお昼を外で食べて、サークルの部室でだらだら過ごす。みんなでご飯を食べに行ったり、お洋服を見に行ったり飲みにいったり。ありきたりな大学生活を過ごせていた。

 

 マヤのバンドのライブを初めて見た日のことが忘れられない。あんなにぽけっとした彼女がステージに立ってギターを背負い歌い始めると別人になるのだ。途端に輝き始めて知らない彼女がいた。初めて友人のライブを生で見て衝撃的で泣いてしまった。

 


 ほのかのバンドのライブを初めて見た日のことも鮮明に覚えている。マヤと一緒に行った。ほのかもマヤと同様で、ステージに立つと別人になった。いつもはほんわかしているけれど、ステージに立ちギターを背負って歌い始めると彼女は少年になっていた。ギターをかき鳴らし、裸足でぴょんぴょん跳ねて、ソロでは寝っ転がって弾いていた。それはパフォーマンスでもなんでもなく紛れもなくほのかという少年の自然な動きだった。この人はこんな風になれる場所があるんだ、と少し嫉妬した。

 


 わたしはずっと音楽を作る側になりたかった。だからそういうサークルにも入ったし、高いギターをローンを組んで買った。でもそんな2人と出会ってしまってわたしにはできないかもなと思った。2人はかっこよすぎた。やりたくって始めたんじゃなくていつの間にか始めていた。なんでか熱中したり長く続けられるものってやっぱりそういう始まりかたをするんだと思う。

 


 2人とは音楽や洋服の話の他にも、こんなことって面白いよねとかこれって不思議だよねという哲学のような話もした。2人の見えてる世界とわたしが見ている世界はやっぱり別物だし、2人の間でももちろん違いはある。だからその様々なものへの考え方の共有はわたしの考えをとっても豊かにした。それまでは何が好き何が嫌いとか表層にある他愛もない話をすることが多かったけれど、本来わたしはそういった不思議とか哲学の話が好きだった。哲学を哲学とも思わずみんなで話しているのも好きだった。彼女たちと話すにつれてわたしはもっとこうやって根本のことを考えていたいんだなと思えるようになっていった。

 


 詩を自ら作ってそれを受講生で考察していくという講義を3人で一緒に取った。そこで初めてきちんと詩を書いた。それまでは音楽をやりたかったこともあり漠然とありふれた言葉で歌詞っぽいものを書いていた。しかし、詩は別物で言葉選びを慎重に、説明しすぎずに伝えたいことを形にする。初めて書けたその詩はその講義の提出用に書いたけれど、それ以上に自分の頭の中にあるぼやんとしたものを形にできた初めての体験だった。自分で何度も読み返して素敵だなと思えた。教授にも2人にも褒めてもらえて嬉しかった。自分でそれを書けたことも嬉しかった。初めて自分が創りだしたものを他人に見てもらえて気持ちがよかった。やっぱりわたしは創作が好きでそれがしたかったんだと思えたし、こういう方向なのかもしれないと思えた瞬間だった。

 


 それからずっと詩を書き続けているし2人にもたまに読んでもらっている。2人もこんな曲ができたよと教えてくれる。なんだかやっと仲間に入れた気になった。かっこいい2人と創ることについて話せるようになってとっても嬉しかった。

 


 2人はバンドを続けてどんどん大きくなっている。2人のバンドはどちらもどんどんかっこよくなっている。何度も彼女たちのライブを見に行けている。どんどん大きな会場になり、今までよりも遠くて小さく見えるはずなのに、より大きく輝きを増していく彼女たちを見ることができてとっても嬉しい。知らない誰かが彼女たちの音楽を聴いて、ライブを見て、体を揺らす姿を見て胸がいっぱいになった。もっとたくさんの人に聞いてもらいたいし見てもらいたい。2人はステージに立つたびにわたしの知らないヒーローになってわたしは彼女たちのファンとしてそれを見ることができる。ステージを降りて目が合えばすぐにほのかとマヤに戻って笑い合える。とっても幸せなことだ。

 


 わたしはずっと詩を書き続けたい。書き続けることが1番幸せでいられると思う。2人が大きくなるたびにわたしもわたしのペースで自信を持って見せられるものを創りたいなと思う。そうしてまたわたしの作品を見てもらえたら嬉しいなと思う。かっこいい曲ができたらまた教えて欲しい。でもそこから離れたどうしようもない話やちょっと頭を使う自分の中の話もしたい。ゆっくり歳をとってだんだん変わっていくお互いを見ていたい。だからどうか2人とはずっと友達でいたい。親友でいてほしい。こんなにも大好きだから。

 


 彼女たちが近くにいなくともこういう気持ちを忘れないでいたいな。わたしはずっと創り続ける。もっと素敵なものを作るから楽しみにしていてほしい。そんな2人と出会えてとっても嬉しい。ありがとうという気持ちでいっぱい。