フェミサイドについて思うこと

 

朝日を浴びて街へ出る

私は何より魅力的

 

月に照らされ家に帰る私は

何より退屈なふり

 

 新しい詩です。

 

 素敵なお洋服を着て、満足のいく化粧ができた時、私は自分のことがもっと好きになります。そうして、家を出るときは誰よりも何よりも魅力的で美しくて可愛くて煌びやかであると感じます。風を切って街を歩き、イヤフォンから流れる音楽に乗って私はMVの主人公になるのです。電車に乗っても、カフェに入っても、コーヒーを飲んで読書をしても、全部映画の中なのです。それほどに自分に自信がつき、余裕をもって時間を過ごすことができます。

 

 正直、フェミサイドという言葉を初めて知りました。しかし、日常的に、誰かに襲われるかもしれないという恐怖感はずっとありました。様々なニュースや、友人がストーカーに遭った、痴漢に遭ったという話を聞いて、明日は我が身となんとなく思って過ごしていたのです。それは私が女性だからです。もちろん性別問わず同じように不安を感じながら生きている方もいるかもしれません。「気を付けてね。」と心配をしてもらえる裏側にはそうした事件に巻き込まれる可能性があるからで、本来は不必要かもしれません。

 

 一人暮らしをしていたころから、いくら治安のいい街とされていても自分の後ろに誰かがいるのではないかと不安になっていました。それは、東京でも、ロンドンでも、田舎の実家に帰ってきた今でも続いています。夜に家路についた時にはいつでもなんだか不安で、音楽を聴いていてもボリュームを下げて、なるべく退屈な人に見られるように歩いています。家を出るころには、あれほど着飾って魅力的だったのに、帰り道には目立たないように風景に溶け込もうとしたり、余計に後ろを振り返ってみたり、出していたお腹をしまってみたり、電話をしているふりをしてみたり、逆におかしな人を装ってみたりといろんな方法でいかに人を近づけないかということをしています。時には、メンズライクのお洋服を着て、気を楽にしようともしています。(もちろん、メンズライクのお洋服がその日の気分に合っていて自分が素敵と思えるから着るときもあります。)いろんな方法で、私には魅力がないですよ、相手にしないでくださいねというようにしています。

 

 友人と別れるときに、「家に着いたら連絡してね。」と言うようにしています。
 ロンドンで生活しているとき、遊んだ後には必ず友人がこう連絡をくれていました。それは私が女性だからでもあるし、アジアンだからでもあるし、いろんな理由が考えられます。ロンドンは日本よりも確かに物騒だったのでそういう文化が当たり前だったののかもしれません。この言葉を言われるだけで少し安心します。誰かにケアされていると思えるからです。そして同じように友人にも「あなたもね。」と返して、家に着いたらお互いに連絡を取り合います。それでやっと気が休まるのです。

 また、私はロンドン生活中の大半を坊主頭で過ごしました。女性でアジアン、舐めるには丁度いい的です。アジアンの女と覚えられるのも(坊主の場合、坊主の印象が勝って、そうした性別や人種的なくくりから逃れると思っていました。)、それだから舐められるのもいやだったので坊主で過ごしていました。もちろん坊主がかっこいいと思っていたし、好きでやっていたことでもあります。

追記:ロンドン生活中、ホストマザーは「道を歩くとき、いつも鍵を指の間に挟んで、火のついたタバコを持っていた。それだけで違う気がした。」と話してくれました。私も喫煙者で、歩きタバコが悪とされていない土地柄だったので電車やバスを降りてすぐにタバコに火をつけ持ち歩き、彼女の教訓にならっていました。

 

 私(たち)は不必要な警戒を日常的にしています。だから男性に守ってほしいとか、誰かに守ってほしいとかそんなことじゃありません。私の身は私で守りますが、いい加減、弱者として女性を扱うのをやめてほしいのです。私はずっと自分にとって魅力的でありたいし、どんな格好をしても安っぽいとは言わせたりしません。小さくなる理由はひとつもないのに、危険があるからというだけでその必要が生まれ、事件に遭えば注意してなかったのではないかとまで言われるのです。痴漢に遭った人も、その人の格好や態度のせいにされたりするのです。悪いのは全て加害者のはずなのに、いつのまにか女性の不注意が原因だと論点をすり替えられてしまうことも実際にあります。どうしたら変えていけるんでしょうか。

 

 私は怒っています。だから詩を書きました。

 

朝日を浴びて街へ出る

私は何より魅力的

 

月に照らされ家に帰る私は

何より退屈なふり

 

 一、二連はリズムよく進むのに三、四連はリズムが崩れています。また二連目に書かれた”私は”がずれる形で三連目に書かれています。内容もそうですが、このギャップだけでも伝わることがあると思います。