🍜 (番外編)

 

 日本はもう22日の水曜日、仲良しの博多の兄ちゃんがまたひとつ歳を重ねたようだ。何歳かは知らん。彼とはラーメン屋のバイト先で出会った。若いくせに店長でずっと年上の癖の強い社員と一緒に働いていた。バイトのメンバーもかなり癖が強かった。教授こと坂本龍〇に師事して日本のダブステップ界をけん引しているむちゃくちゃにいかつい人、名門興南高校の野球部出身でモデル志望のでかい人、モデル志望からフ〇インボーイズの専属になった人、漫画家志望の人、劇団員だか役者志望の人、もちろん普通に大学生もいた。私はその普通枠の一人だった。

 初めてのバイトだったがかなり楽しかった。覚えるまではちんぷんかんぷで恥ずかしくて大変だったが慣れてしまえばなんのその。混み合う時間もわかってくると力の抜き方も覚える。うまいことサボって楽しくやれていた。

 

 バイトが12時近くの締めまで入っていると店長やバイトのみんなと近くの飲み屋に飲みに行った。適当に帰れる日もあれば、朝まで飲む日もあった。3時、4時にお開きになると、みんなで働き先のラーメン屋に忍び込んで、麺を茹で、スープを炊き直しラーメンを食べた。あの時に食べたラーメンが何よりもうまかった。今でもたまに思い出す。

 働いた後の酒のうまさ、酒を飲んだ後のラーメンのうまさ、みんなで悪いことしてるときの楽しさをそこで学んだ。当時はそわそわしたらダサいぞと平静を装っていたが、それまでくそ真面目に生活していた私にとってすべて新鮮で、ワクワクしていた。

 仕事中や飲み会では大学での話や将来のこと、恋愛の話、いろんな話をした。私が恋に破れた日もバイト後に店長とバイトの人が飲みに連れて行ってくれた。へらへら慰めてくれたりバカを言い合ったりした。とにかく私にとっていい兄ちゃんたちがいっぱいいた。間違いなく兄ちゃんだった。

 

 ある日、店長が芸人を目指すからと社員をやめる話を聞いた。私はとっても興奮した。芸人を目指すってそんな格好いいことあるか!ここは東京だし何万と芸人志望はいるだろうけれど出会ったことは一度もなかった。しかし、格好いいなんて面向かって言うわけないので、彼がボケるたびにM1一回戦負けよ、といじっていた。

 そのラーメン屋には先述した通り夢を追っている人がたくさんいた。私もその一人で、当時はどうにか音楽を…と思っていた。周りにそういう人がいるとやるぞという気持ちにもなる。モデル志望でオーディションを受けていた人がメンズファッション雑誌の専属になったのを目の当たりにしたり、教授に憧れて始めた鍵盤で最終的にバックで弾かせてもらえるようになったという話も直接聞いた。大きな一歩を進めたり、実際に叶えたりしている人もいて自分もなんか夢を追うことできちゃうのかもと思っていた。

 しかし、店長がやめる前にそのラーメン屋はつぶれてしまった。当時働いていたみんなはちりじりになってしまい今はもう何をしているのかわからない。ただ店長とだけは連絡を取り合えていた。彼はしばらく芸人として地元の幼馴染とコンビを組んで東京で活動したのちそのコンビを解散(本当にM1一回戦負けをしたらしい、出場に感動してしまいあまりいじれず)。また違う地元の幼馴染とコンビを組むも解散。私は結局彼の笑いを見れずに終わってしまった。そして、店長は地元の福岡に帰ることになった。

 

 帰る前に飲もうやと話していたが連絡は一切なくもうすぐ帰るとなったので当てつけのように帰れやと言ったらやっと誘いをくれた。東京にいる地元の友達と飲むという大事(そう)な会に混ぜてもらった。ぶっちゃけ肩身はかなり狭かったが酒を飲めば持ち前の図々しさで楽しめるものだ。

 そして、その日、向かった店は浅草にある「捕鯨舩」だった。たけしが歌った「煮込みしかないくじら屋で」のくじら屋である。さすがにしびれた。最後まで格好良かった。お笑いをやめて地元に戻る最後の飲み屋にその店を選ぶ。そんな粋なことするのか、と。笑い引きずりまくってんのか、けじめなのかわかんねーよ!ともなったけど。

 彼らの会話も懐かしい話をしつつも私も参加させてくれてかなり愛を感じた。本当にむちゃくちゃ楽しかった。九州男児最高!ほんで好きなだけ飲んで食べた。全員最寄りが同じだったのでそこへ帰り、二軒目はたまに行っていた飲み屋へ行った。また好きなだけ飲んで食べて、少し寂しくなって、解散になった。結局働いた期間も一年足らず、知り合ったのも二年もない。だけど大学生が始まってから大学以外の思い出がほぼすべてそこにあった。近場で飲んだり、花見するぞと夜に公園で鍋を無茶にしたり、特別出かけたりはせずに近所同士なりの遊び方をした。思い出せる思い出がたくさんある。へらへらしているがどこまでも男前で頼りがいがあり兄ちゃんとどっこいぐらいには兄ちゃんだった。だから本当に寂しかった。

 

 それから2年がたつ。もうそんなに寂しくない。違う生活にも慣れた。また博多でも東京でもどこでもいいのでいつか会えるといいなと思う。まあいつか会うでしょう。

 それまで負けんなよ!とりあえず今年はいい一年にしろよ!

 

追記:店長が捨てた二人がコンビを組んでM1三回戦まで行っていてむちゃくちゃに笑った。